
Introduction
illustrator /
tak nakagawa
アメリカの荒野に強く惹かれるようになった原点は、学生時代に出会ったステファン・ショアやジョエル・マイエロヴィッツの写真集にある。
大型カメラで切り取られた何気ない日常の風景は、日本で生活する自分の感覚とはまるで異なり、写真の向こう側に流れる空気そのものに強い憧れを抱くようになった。
いつかその場所に身を置き、同じ空気を吸いながら世界を見てみたい
――そんな思いが静かに積み重なっていった。
写真の仕事を通じてアメリカを訪れる機会が増えるにつれ、その感情はより具体的なものへと変わっていく。やがて、自分が本当に向かいたい土地は五つの州に絞られた。
アリゾナ、ネヴァダ、コロラド、ニューメキシコ、ユタ。
8×10の大型カメラを携え、レンタカーと地図だけを頼りに、これらの州を巡る旅に出た。
撮影は昼、移動は車、夜はモーテル。
撮影したフィルムは現地で現像する必要があったため、現像道具も旅の荷物に含まれていた。
ウォルマートで簡単な食事を買い、狭いバスルームにこもってフィルムを現像する。
乾燥棚にネガを吊るし、ベッドに倒れ込む頃には、窓の外が白み始めている。
そんな日々の繰り返しの中で、五州の撮影を終えた。
帰国後、ギャラリーで個展を重ねる一方、選ばれなかったネガは大量に残った。
完全な暗室ではないモーテルの浴室で現像したため、わずかな光の影響を受けたものも多く、作品として使えないネガも少なくなかった。
時間が経ったある日、それらのネガを写真としてではなく、イラストとして描き直してみてはどうかという考えが浮かぶ。
試しに一枚描いてみると、そこには写真とはまったく異なる時間が流れていた。
写真では意識しなかった細部まで描く行為が、かつて自分が見ていた風景と真剣に向き合う時間を生み出してくれる。
過去に撮影した写真と対話するように、現在の自分が線を重ねていく。
そうして今も、あの荒野の記憶と向き合いながら、日々イラストを描き続けている。
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